第11回若手研究会

日本タイ学会の第11回若手研究会を2014年2月22日(土)に開催しました。
佐治さんは博士論文の一部となる内容について、外山さんは提出済みの博士論文について報告しました。

日時 2014年2月22日(土)午後2時~6時
場所 東京大学社会科学研究所1階 第一会議室

報告者(1):佐治史氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士後期課程)
「『観光大国』を支える生活の論理:タイ運河沿い集落の水上マーケットをめぐる経済実践と社会」

報告者(2):外山文子氏(京都大学東南アジア研究所連携研究員)
「タイ民主化と憲法改正―1992~2012―」

【当日の様子】
 佐治氏のご報告は、ラーチャブリー県ダムヌンサドゥアク水上マーケットにおける経済活動について、観光客との商取引や経営者間の社会関係形成を中心に、ご自身が土産物店で働きながら調査・参与観察したデータに基づいて行われた。船着き場経営者と、青果物商、土産物小売商を主な対象とし、それぞれの経営形態等を明らかにした。
 土産物商は主な客層が海外の観光客であり、その場限りの駆け引きで売値が決まるのに対し、青果物商はタイ人を主な客層として定価をベースに売買する。また、土産物商どうしは競争相手であり協力関係がほとんどないのに対し、青果物商どうしは商取引の場で協力関係がみられ、その友人関係は日常的な贈与によって支えられている。このように両者には差異があるが、観光業と農業、そして商業の3つが維持されることで成り立つのが水上マーケットである。また水上マーケットではジャップ・ブー(くじ引き)という「賭け」や「遊び」の側面が強い取引も行われている。以上がご報告の簡単なまとめである。
 フロアからは、タイ経済における「市場(しじょう)」と、実際に行われているマーケット(市場(いちば))との関連についてのコメントがされた。また、青果物も含め、ダムヌンサドゥアクはあくまでも観光としての市場(いちば)という要素が強いのであれば、生活実践の場としての通常のタラートとは性質が異なるのではないか、といった質問も出された。その他、船着き場経営者や青果物商のタイ語呼称(主体の男女比に関わる)や、観光客層、他のマーケットとの比較などの検討から、抽象的な「市場(しじょう)」と具体的な「市場(いちば)」との関係性について、活発な議論が行われた。
 続いて、外山氏は昨年度に提出された博士論文の内容に基づき、1991年憲法、1997年憲法、2007年憲法の比較から、憲法改正がタイ民主化に与えた影響及びその政治的意図についてご報告をされた。
 1997年憲法と2007年憲法はいずれも政治家の汚職取り締まりを強化する点で共通していたが、それは汚職の増加というよりむしろ汚職と認定される範囲が拡大していたということが明らかとなった。また、独立機関は一連の司法制度に関わっているが、2007年憲法で権限が強化され公正性を欠くこととなった。加えて、ほぼ半数が任命制となった上院が憲法改正を阻止する役割を担っている。以上の点からも、1990年代以降の憲法改正は、選挙を通じて表明される民意を軽視しており、反対に過度に強化されて十分なアカウンタビリティを欠く司法により、議会制民主主義への信頼を低下させ、1990年代に始まった民主化への流れを非民主化に向かわせるものであった、というのがご報告の趣旨である。
 フロアからは、「司法」の政治アクターとしての実体面や、背後に存在する政治権力等にについて質問が出た。また、タイ裁判官の憲法や法律に対する認識についてもコメントがなされ、タイ裁判官の法に対する認識は、伝統的な道徳規範等の影響を受けて、西欧諸国のそれとは異なるのではないかといった議論が展開された。更に、現在のタイ政治情勢にも話題が及び、従来の政治権力構造が崩壊しつつある点についても活発に意見が交わされた。

(文責:宇戸優美子)

写真1:外山さんの発表
写真1:外山さんの発表
写真2:佐治さんの発表(発表を終えた後も続く議論)
写真2:佐治さんの発表(発表を終えた後も続く議論)