第16回若手研究会

第16回若手研究会を、10月24日(土)に開催しました。

日時:2015年10月24日(土)午後2時~6時頃
場所:東京大学赤門総合研究棟5階センター作業室(533号)

報告(1):大林由香里(京都大学医学研究科社会健康医学系専攻社会疫学分野専門職学位課程2回生)
「サムットプラカーンにおけるスカベンジャーの健康問題に関する質的研究:職業に関連する健康被害と、それに対するリスク認知について」

報告(2):Thawatchai Worrakittimalee(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程)
“Formation, Change and Continuity of Local Political Networks in Northeastern Thailand after the 2004 Local Elections: Case Studies of Ubon Ratchathani, Udon Thani and Khon Kaen Provinces”

【当日の様子】
大林氏の報告は,準備中の修士論文をもとに,「サムットプラカーンにおけるスカベンジャーの健康問題に関する質的研究:職業に関連する健康被害と、それに対するリスク認知」と題して行われた。大林氏は、スカベンジャーを「リサイクルできるものを拾って、それを売ることによって日銭を稼いでいる労働人口」と定義し、これまでネパールで行ってきた同様の調査経験から、タイのスカベンジャーが直面する健康被害とそのリスク要因及びスカベンジャー自身のリスク認知の度合いを質的に調査した結果を報告した。
サムットプラカーン県に位置するゴミ処理場EEPを調査地とし、計38名の調査協力者の属性を、性別、年代分布、婚姻状況、国籍、教育レベル、雇用形態、収入等の特性を踏まえ、合目的的サンプリング及び理論サンプリング法を用いて分析した結果、リスク認知と予防行動が以下のように示された。すなわち、(1)スカベンジャーという職業に関連する疾病関する知識レベルとリスク認知度に関連する主な要因として、個人の特性のほか、情報へのアクセスの有無、過去の経験が考えられること、(2)知識レベルやリスク認知度が高くとも、それがそのまま疾病のリスクを予防する行動には結びついていないこと、を明らかにした。具体的には、長期間就労しているスカベンジャーほど仕事に関する知識レベル及びリスク認知度が高く、積極的に予防行動を行っている傾向があるが、知識レベルが高いがリスク認知度が低い(自分は疾病に罹らないという自信をもつ)者や、リスク認知度は高いものの知識を積極的に求めない(疾病に関する知識が増えると恐ろしいので知りたくないと考える)者もおり、一般化することは難しいと結論づけた。
フロアからは、方法論に関する質問やコメントがなされたほか、リスク認知から予防行動に至る過程の、どこでスカベンジャーたちの行動が途切れているのかをより明確に表すための追加調査項目等も提案された。

休憩を挟んで、Thawatchai氏が執筆中の博士論文をもとに、”Formation, Change and Continuity of Local Political Networks in Northeastern Thailand after the 2004 Local Elections: Case Studies of Ubon Ratchathani, Udon Thani and Khon Kaen Provinces”と題する発表を行った。
Thawatchai氏は、(1)なぜ主要政党が地方自治体首長選挙に介入していったのか、(2)政党の介入は地方政治ネットワークの形成維持にどのような影響を与えたのか、の2つの問いを設定し、東北地方、特にウドンターニー、ウボンラーチャターニー、コーンケーンの各県で行ったフィールド調査の結果をまじえて考察した。
(1)に関して、2004年に初めて直接選挙が行われた地方自治体選挙に、主要政党は地方への影響力の延伸と有権者へのアピール、翌2005年に予定されていた総選挙での勝利を期待し、介入したことを指摘した。この年、東北地方ではタイ愛国党が19県中17県の県知事選を制する大勝利を収めた。しかし、第2回(2008年)、第3回(2012年)の選挙では政党の影響力は弱くなり、地方の政治組織や政治グループの影響が強くなった。特に2012年選挙では、政治的見解が二極化していた影響も受け、地方で組織された政治グループが強く影響力を行使した、と結論づけた。また、(2)に関して、既存のエリートや有力者たちは、親族関係や派閥に基づく個人的ネットワークを通して地方自治体選挙に臨み、可能であればその影響力をあらゆる方位へ拡大してきたが、その一方で、実業家や官僚に代表される新興エリートたちは、地方自治体選挙に臨んで、より下位の行政組織への権力の延伸を求めてきたことを指摘した。最後に、2008年以降政党の地方政治ネットワークへの影響力は低下傾向にあり、むしろこれが地方レベルでの新しい政治ネットワーク形成を促した、と結論づけた。
フロアからは、影響力やネットワーク、それが及ぶ範囲の評価方法や、既存の新旧エリートにかんする議論との相違点について質問がなされたほか、東北地方に限定せず中部や南部、「赤色」以外の地域へも考察の対象を拡大する展望にかんするコメントが寄せられた。

(文責:竹口美久)

写真1:報告する大林氏
写真1:報告する大林氏
写真2:報告する真辺氏
写真2:報告する真辺氏